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飲み物の話。

2023年7月1日

その飲み物は微妙でした。



何が微妙かってまず味がはっきりしない。甘いわけでも炭酸のようなスカっと感もない。


とにかく薄味。


だから商品開発の時から売れるか売れないか判断つかず、「こんな製品もぼちぼちいるやろ。」と社長の一声でやっと商品化したくらいです。


こんなはっきりしない商品ですから、最初全く売れず、それどころか店にすら置いてもらえない。


「こんな、味があるかないんか分からん商品店に並べるわけにはいかない。売れないものにスペースを割くのは無駄」という理由です。



営業部隊は困りました。



店に置いてもらえないと売るチャンスすらない。


困った末に1杯100円のテント販売をやりますが全然反応がない。夏の猛暑の時期にスポーツ競技場で売っても売れないのです。


もうこの商品はだめかも知れない。でもあきらめるのはあまりに惜しい。なんとかして飲んでもらえないか。


そう考えた営業部隊、最後の賭けに出ます。


「どうせダメなら無料で配ってしまおう。タダなら飲んでくれるだろう。」


採算なんて度外視ですが、それしかなかったのです。偶然ですが今で言うサンプリングの手法ですね。


もう営業部隊は神頼みです。祈るようにしてそれをやり始めた次の年。


それまでずっと低い横ばいだった売上が急激に売れ始めました。


右肩上がりとかそんな可愛いものではなく、垂直に近い売れ方です。


前年、いろんな学校や各スポーツ施設に配ったサンプリングが効いてきたわけです。


薄味で微妙な味だったその飲み物が、実は乾いた体に最適な飲み物だとみんなが理解したのです。



その商品名、ポカリスエット。



汗をかき切ってカラッカラの状態で思い出した、去年もらったあの青い飲み物。


炭酸よりもオレンジよりも一番美味しかった…となれば必ず売れる。


だってライバルがゼロなんですから。


今ではスポーツ飲料は一つのジャンルとして確立されています。





ただ一つの商品が巨大な市場を作ってしまったというお話。

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